『心得1 ~武道者の根本命題について(強さの秘密)~』
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今回は武術(武道・格闘技)を習得するもののスタート点であり終着点でもある根本命題を教示します。

心得1

『「何のために強くなるのか?」「誰のために勝利するのか?」ということを常に自らに問い続けることが武術(格闘技)の根本命題であり最終問題である』

【2020年大晦日RIZIN朝倉海戦に勝利した堀口恭司の言葉】

2020年大晦日の格闘技イベントRIZINにて、前年(2019)の対戦で朝倉海選手に敗れた堀口恭司選手が王者となった朝倉海選手と再戦した。
結果はみごとKO勝利。
2019年に敗れた屈辱を見事跳ね返した。

堀口恭司選手は勝利後のインタビューにこう答えている。
「もちろん勝って嬉しいですけど、やっぱり嬉しいのってほんの一瞬で、ファンだったり親だったり、みんなの笑顔を見たいなって感じますかね。それがないと人生つまんないじゃないかなって、思います」

【解説】

《武術の命題1『自らを鍛えて己を強くする』》

武術(武道・格闘技)を身につける理由の一番の動機は「強くなりたい」でしょう。

ですが、「なんのために強くなるのか?」ということが強くなるためには重要なのです。
武道や格闘技に限りませんが、スポーツ競技全般に言えることは、「やる動機」あるいは「目的」です。

武道、格闘技を身につける目的、動機が「ケンカに強くなりたい」では強くなれません。
正確に言うと、「そこそこの強さしか身に付きません」
なぜか?
武道や格闘技は確かに戦い(試合)をするし、戦闘術を身につけるのだから素人よりは強くなれます。
ですが、そうした動機や目的で武道の門を叩いたひとは決まって長続きしません。
所詮素人に勝てる程度にしか強くなりません。
「上には上がある」という言葉のとおり、武術、格闘技の世界には猛者がごろごろしているからです。
そうした百戦錬磨の猛者に勝つにはハードな練習が必要で、その厳しいトレーニングを導き出すのが「強い動機」だからです。

要するに、「ケンカに強くなりたい」という動機は隣町に旅行にいくようなものなのです。
簡単に達成してしまうのです。
ですから、目的を失って辛い練習、稽古に耐える力が湧いてこなくなります。
どうせなら、「世界チャンピオンになる」「武術を極める」とすることです。
これらの動機は遠くの星へ出かける宇宙旅行みたいなものなので、時間がかかりなかなか達成できないものです。
しかし、だからこそ厳しい練習に耐える力となるのです。

武術を習得するということは長い時間の鍛錬を必要とします。
辛い稽古に耐える力の源泉は「強さへの憧れ」です。
その強さへの憧れは、「限りなく己に厳しく己を鍛える精神」となって初めて「武の道」を歩むことができるのです。

武術を習得する根本命題は、「限りなく己の精神を鍛える」又は「限りなく己を強くする」ということです。
難しく言うと「利自」です。
己を鍛え強くすることが武道や武術を習得する根本命題のひとつです。

しかし、「ここに何のために強くなるのか?」という問いかけが武道者に立ちはだかります。

《武術の根本命題2》

武術を習得すれば心身は鍛えられ強くなります。
ですが、動機が「自分が強くなるため」で終ってしまっている人もいます。

高い身体能力と度胸があって、ハードな練習をすれば必ず強くなります。
良い指導者に恵まれれば王者にもなれます。

ですが、それで終わっていいのか?
という問いかけが武道者に迫ってきます。

要するに、「何のために勝つのか?」「誰のために勝利するのか?」という問いかけが武の神から問いかけられるのです。

堀口選手が言っているように、自分だけのために戦う人、自分が強くなれば満足する人はやがてどこかの時点でモチベーションが下がります。
モチベーションが下がれば武術(格闘技)の実力もおのずと下がるものです。
(モチベーションのひとつにハングリー精神がありますが、それは私の説く心得とはズレているので多くを語りません)

人間は自分のために戦うよりも、誰かのために戦うときのほうが強くなります。
自分が己の強さを誇示するための戦いよりも、愛する人を守るための戦いのほうがより力を発揮します。

堀口選手はそうした武道者の理想の心境に達しているのです。
強いだけなら、熊や虎などの猛獣のほうが人間よりはるかに強い。
でも、人間が示す強さとは違ったもののはずです。
特にプロの格闘技選手にはこの2つ目の根本命題が重要です。
応援してくれるファン、会場に来てくれるファン(視聴含む)のために戦うという心なく、リングや試合場に臨むのは傲慢です。
応援してくれる人たちあってこそのプロ選手なのですから。

結局、「己の為に戦う人よりも誰かを笑顔にするために戦う人のほうがより強さを発揮する」

ということです。
それを難しく言うと「利他」という言葉になります。
自分以外の人を守るために強くなる、自分以外の誰かを喜ばせるために勝利する、ということです。

余談ですが(フィクションの世界ですが)、漫画『北斗の拳』でラオウがケンシロウに敗れた理由がこれなのです。

《まとめ》

『「何のために強くなるのか?」「誰のために勝利するのか?」ということを常に自らに問い続けることが武術(格闘技)の根本命題であり最終問題である』

この『心得』を常に自らに問いかけつづけてください。

あなたは何のために強くなろうとしていますか?
あなたは誰のために勝利しようとしていますか?

この“問いかけ”を自らに問い続けた人のみが強くなりつづけ、敗れても立ちあがって勝利を掴むのです。

押忍!

『心得2 ~情熱が強さの源泉~』

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