『心得9 ~「恐れ」と「油断」は敗者への道~』
Pocket

心得9

『強敵にも弱みがあり、格下にもチャンスがある。強敵に対して必要以上に恐れるな! 格下に対して侮れば、己の命取りになる! 油断は命取り!』

【解説】

《武術修行における壁》

武術初心者の方が当然ぶつかるのは、先輩方との実力差であろうと思います。
先輩や格上の人と組手や試合をすると、どうしても「勝てないな~!」と思ってしまいます。
それは、武術(武道)や格闘技は、実力の差がはっきりと出るからです。

やがて3年、5年と修練を積んでいくことで先輩たちとの実力差は少しずつ埋まっていきますが、先に修行の道に進んだ者の特権として、さらに先へ行ってしまうことが多いもの。
そうした“壁”が武術初心者、または中級者の方が通るべき関門です。

ですが、どんな強敵でも共通することがあります
それは必ず「何らかの弱点がある」ということです。

総合的に、すべての技や技術において完全に優っている人などいません。
試合は、ルールに基づいて行われます。
ですから、腕力があるとか、修練の経験が長いとかではなく、一番勝利に近い人には「そのルールに適合している」「そのルールに有効な戦い方を身につけている」という共通点があります。

どんなに優れた技や動きを身につけていても、所属する団体のルール上ではあまり有効でないものは意味がありません(試合でということ)。
使用できない技や動きは武術者としては立派ですが、試合の勝利を約束するものではないのです。

試合で上位者となる者たちは、共通して「そのルールに適合している」という特徴があるのです。
まず、それを理解してください。

さらに、どんなに強敵(強者)であっても、どこかに弱点があります
それを見抜くのは初心者には難しいですが、初心者のうちからそうしたことを考える癖をつける必要があります。
弱点もしくは「不得手」な部分を見抜くことが、格下が強敵に対抗する唯一の手段です。
その弱点もしくは「不得手」を攻める、利用することで勝利の可能性が高まります。

そうした見抜く力は普段から磨いていないと発揮できません。
ですから、普段の練習時において先輩たちの様子を観察し、弱点や不得手などを学ぶことです。
そうした習慣があれば、観察力が身につき、試合においても観察眼が働き、対戦する相手の弱点やウイークポイントを攻めることができるようになります。

《恐れを恐れよ!》

初心者、又は中級者クラスの人が上級者や強者と対戦するときに心がけることは「恐れるな!」です。
恐怖は体を委縮させ、技の劣化を招き、スピードを低下させます。
なにより闘志を減退させます。

それによって、本来の力量を発揮できません。
格下なのですから、持てる力量の100%を出しても勝てるかどうか分からないのに、80%、60%しか実力を発揮できなければ圧倒的な差で敗退するだけです。
そして「やっぱり負けたか!」と変な納得をするのです。

格下であっても勝負は勝負。
相手が先輩であっても勝負は勝負。
どちらが勝利するかは、経験や技の優劣だけでは決まらないことがあるのです。

それは相手の「油断を見逃さずに攻める」「弱点を攻める」「弱点を逆に利用する戦い方をする」などです。
こうしたことが可能となれば、勝利の可能性は高まります。
(勝てるとはいいません)

そしてより重要なことは、そうした戦い方(試合)と練習を積む者は、いずれ大きく成長することは間違いないのです。
サナギが脱皮するがごとく、ある日成虫となって羽ばたくことができるものです。

上級者や強者相手に恐れるな、と言っても、それは非常に難しいことです。
それを承知であえて言っているのです。
なぜならば、「恐れ」こそ武術者としての成長を止めてしまうからです。
実力を低減させてしまうからです。
ですから、「無心」の境地、「挑む(チャレンジ)心」を普段から磨くことです。

「恐れる心をこそ恐れる」ことです。
相手を恐れる前に、己の弱い心と戦うことです。
恐れとは、結局、己の心の弱さの影でしかありません。
己の影におびえているだけです。

恐れないコツはたった一つしかありません。
「全身全霊で練習に打ち込む」ことです。

恐怖とは結局、「自信のなさ」を表わすものです。
ですから、これ以上できないというところまで練習を積むことです。
それが自信となり、恐怖を減退させることにつながります。

「強敵を恐れることを恐れよ!」です。

「恐れる心をこそ恐れる」ことが初心者の心得です。

《油断大敵!》

ここで視点を初心者ではなく、上級者または実力者に移します。
まれではありますが、実力者が格下に敗れるという「大番狂わせ」が起こることがあります。
それは空手の試合だけではなく、あらゆる武道、スポーツにおいてもそうでしょう。

相撲では、横綱に勝利する力士もでます。
また今年のオリンピックの種目となった空手においても、世界大会で何度も優勝したような選手が予選等で敗退する事態も起こっています。
世界大会で何度も優勝する実績のある選手がランキングの下の選手に負ける理由はなんでしょうか?

いくつかありますが、ここではひとつだけ取り上げます。
それは「油断」です。
まず、試合前に「なんだ格下か」「以前の対戦では勝ってるな」などと思う時点で黄色信号が灯っていると思った方がいいでしょう。

その「油断」の根源は「慢心」です。

その認識は、すでに過去のものであることを意識しなければなりません。
相手は、以前にあなたに負けた瞬間から猛稽古に励み、違う技を身につけ、力量をアップさせ、なおかつあなたを打倒するための秘策を持っているかもしれません。

基本的に、経験の豊富な選手であれば、大きな油断はないものの、「瞬間的な油断」と「心のどこかに緩やかな安心感=きっと勝てるという思い込み」があるはずです。
それが格下相手に負ける要因となることを肝に銘じることです。

「どんな相手にも油断しない」こと、それが先駆者=実力者が心掛けなければならない勝利への心得です。

心のどこかに生れがちな“小さな油断”を見つけ出すことです。

《まとめ》

武術初心者、または中級者のかたが通るべき関門は「上級者」「強敵」との苦戦。
どんな強敵でも共通すること、それは「何らかの弱点がある」「何らかの不得手がある」こと。
勝利に一番近い人には「そのルールに適合している」「そのルールに有効な戦い方を身につけている」という共通点がある。
初心者のうちから他の選手の「弱点」や「不得手」を見抜く訓練をする習慣を身につけること。
「弱点」もしくは「不得手」な部分を見抜くことが、格下が強敵に対抗する唯一の手段。

初心者や中級者クラスの人が上級者や強者と対戦するときに心がけることは「恐れるな!」
恐怖(恐れ)は体を委縮させ、技の劣化を招き、スピードを低下させ、闘志を減退させてしまう。それによって、本来の力量を発揮できなくなる。
「油断を見逃さずに攻める」「弱点を攻める」「弱点を逆に利用する戦い方をする」、があれば勝利の可能性はある。
「恐れ」こそ武術者としての成長を止めてしまう。
「無心」の境地、「挑む(チャレンジ)心」を普段から磨く。
相手を恐れる前に、己の弱い心と戦う。
恐怖とは結局、「自信のなさ」を表わすもの。
恐れを消すには「全身全霊で練習に打ち込む」しかない。
「恐れる心をこそ恐れる」ことが初心者の心得。

勝負の世界では、実力者が格下に敗れるという「大番狂わせ」が起こることがある。
実力者が負ける場合、その原因は「瞬間的な油断」と「心のどこかに緩やかな安心感=きっと勝てるという思い込み」であるはず。
「油断」こそ実力者が注意するべきこと。
「油断」の根源は「慢心」
心のどこかに生れがちな“小さな油断”を見つけ出すこと。
「どんな相手にも油断しない」、それが実力者の勝利への心得

『心得9』

『強敵にも弱みがあり、格下にもチャンスがある。強敵に対して必要以上に恐れるな! 格下に対して侮れば、己の命取りになる! 油断は命取り!』

押忍!

『心得10 ~武の道とは「心技体」の順番で大切~』

おすすめの記事